ブレーキ性能評価
摩擦は摩擦表面の微視的な凝着剥離と引っかき摩擦が合算されて摩擦力として出力される現象です。
この凝着剥離や引っかきの摩擦力は材料の硬さや引っ張り強さ(せん断強さ)に依存しており、たとえば凝着剥離は引張り強度に、引っかきは硬さによって支配されています。
また前記特性は材料の密度、気孔率とも強い関係があり、たとえば同じ組成で密度が上がれば硬さ、せん断強さがあがり、気孔率は下がります。
よって摩擦材はこれらの物理的特性を管理することにより、間接的に摩擦特性を管理することができ、これら物理的特性を管理することは非常に重要です。
以下にそれぞれの物理特性と摩擦特性の関係について紹介します。
摩擦係数
表面硬さ
同じ組成であれば硬さが高くなると、真実接触面積の低下により摩擦係数は下がる。
- 硬さが高くなると摩擦係数は下がる
一般的に摩擦力は相手面と接触している部分(真実接触面積)と強い関係があり、すなわち真実接触面積が大きくなると摩擦力も増加する傾向にある。また硬さが高くなると真実接触面積は小さくなることから硬さが高くなると摩擦係数は下がる傾向になる。
比重・密度・気孔率
同じ組成であれば比重、密度が高くなると、気孔率は低下する。また比重、密度が高くなると硬さは高くなり、前記硬さと摩擦係数の関係と同様の傾向が認められる。
- 密度が高くなると摩擦係数は下がる
一般的に密度が高くなると硬さが高くなることから前記硬さと摩擦係数と同様の関係となる。
性能試験
最終的な摩擦係数(摩擦特性)の評価は車両メーカーやブレーキシステムメーカーにより実際の車両や摩擦試験機を使用して実施される。一方摩擦材メーカ-ではJIS、JASOをベースとした摩擦条件や前記実走評価をシュミレートした摩擦条件で慣性式摩擦試験機を用いて摩擦特性を評価する。JISやJASOベースの主な試験条件としては効き=摩擦係数を評価する通称一般効力試験と呼ばれる試験と、寿命=摩耗量を評価する通称摩耗試験がある。
一般効力試験は規格ではJASO T204やJASO C406に相当する試験である。試験の目的は入力(押し付け圧)と速度を変えた場合の摩擦係数を測定することと、摩擦面の温度を上げた時の摩擦係数の変化(フェード現象)を測定することである。また摩擦面に水を散布した時の摩擦係数の変化(ウォーターフェード現象)も測定する。これらの条件が一つの試験条件に全て網羅されている。一方摩耗試験は規格ではJASOC427に代表される試験で、摩擦面の温度別に摩耗量を測定する試験である。
耐摩耗性
表面硬さ
摩耗量と摩擦材の表面硬さには密接な関係がある。ただし摩耗の形態によりその関係は異なる。主な摩耗形態としてはアブレッシブ摩耗と凝着摩耗がある。一般的なブレーキの摩擦は凝着摩耗が支配的と考えられる。凝着摩耗が支配する摩耗では硬さが高くなると摩耗量は大きくなり、アブレッシブ摩耗(ひっかき摩耗)が支配する摩耗では摩耗は小さくなる。
- 硬さが高くなると凝着摩耗は大きくなる
- 硬さが高くなるとアブレッシブ摩耗は小さくなる
凝着摩耗は摩擦面の温度上昇により凝着が発生、凝着した部分を含む摩耗粉が発生、摩耗に至ることから微視的な摩擦面の温度が重要な因子となる。その温度は摩擦面の真実接触面積により支配されており、真実接触面積が大きいと微視的な温度上昇は小さくなり、凝着摩耗は小さくなる。真実接着面積は概ね硬さと強い相関があり、硬さが低いと真実接触面積は大きくなる。一方アブレッシブ摩耗は硬い物質がそれより柔らかい物質を削る摩耗であり、単純に硬さが硬い方が摩耗は小さくなる。
比重・密度・気孔率
比重、密度が高くなると硬さも高くなる。気孔率が大きくなれば硬さは低くなる。よって前記耐摩耗性と硬さの関係から硬さと比重、密度、気孔率と耐摩耗性の関係は推察することができる。
- 密度が高くなると摩擦係数は下がる
同じ成分系の場合、気孔率が小さくなれば比重が高くなり、硬さも高くなる。よって摩耗との関係は前述した表面硬さと摩耗と同じ関係となる。
性能試験
耐摩耗性を評価する試験としては前記の通り、JASO C427に代表される温度別の摩耗試験があり、この試験は主に凝着摩耗を評価することができる。アブレッシブ摩耗を評価する試験規格はないが摩擦面に砂のような硬い粒子を介在させることで評価することができる。
強度
せん断
摺動時を想定したパッド材料のせん断強度の確認。
摩擦材自体のせん断と裏板付の摩擦材のせん断と2種類がある。
接着
高温環境や海水・融雪材の環境下でのパッド材と裏金のハガレ強さの確認。
常温・高温・発錆試験の3種類ある。
曲げ強さ
パッド材の材料物性を確認するために測定。三点曲げ試験で測定。
固着強さ
パーキングブレーキ使用時にパッドとディスクが固着することがあるため、パッドとディスクを浸漬液に浸し固着させ、その固着強さを確認する。
その他
接着面発錆
パッドを含むブレーキ部は露出環境で使用されることが多いので、パッドの接着面に錆が発生しやすい環境である。その錆を塩水噴霧などで発生させて、パッドの接着面の錆の発生度合いを確認する。
熱膨張
ブレーキシステム(例:キャリパー)設計時にそれぞれのパーツの歪量が必要となるためパッドの歪を測定する。また、熱膨張によるパッドとディスクのクリアランス設定値に必要。